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49話 スパルタ訓練

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-05-22 17:17:00

「ぜぇ……ぜぇ……」

私達は全員息を切らし多量の汗を流していた。四人がかりで攻めるものの武器が当たる気配はなく、一時間かかっても擦りもしなかった。

「マジで一発も当たんねぇ……!! 全部ヒラヒラと躱しやがる……!!」

「神奈子は偶に蹴りとかも混ぜてくるけど、あくまでも最後に当てなきゃいけないのは武器だからね?」

「分かってるって! というかそれ含めて一発も当たってなかったろ!」

最中で健橋先輩の格闘術みたいに私達も各々創意工夫した。私もトリガーを引くと見せかけて銃で直接殴ろうとしたが肩を掴まれ波風ちゃんとぶつけられてしまった。

「当たる気配が全くない……それに腕も痛いわ……」

「疲労ならある程度治せるからちょっと見せてみて」

生人君が波風ちゃんの手首に触れると血管が一瞬浮き出るがすぐに手の腫れなどが引いていく。

「すごい全く痛くなくなった……けどあまり見てて気持ちが良いものではないわね」

「それはごめん……」

生人君は気持ち悪いと遠回しに言われしょんぼりして気を落とす。

「よし! 少し休憩したらまた始めるよ!」

「マジか……これは結構しんどくなりそうだな」

「でもやるしかないよ! 確実に動きは良くなってると思うし、今度はもっと連携していこ!」

「それは生人さんの前で言ったらだめなんじゃない? 作戦がバレるよ?」

「あっ……」

「あはは……やり方は問わないから君達の自由にやっていいよ。適宜アドバイスはするけどね」

それから一息置いてから私達は再び生人君に挑む。

武器の振り回し方や逆に攻撃の受け方。私も銃の構え方や応用を教えてもらう。

連携もアイコンタクトでできるようになり、私の放った水玉に合わせて三人が動き、全方位から逃げ場なく攻撃を繰り出す。しかし生人君はスケート選手のように体を仰け反らせ武器を躱す。

「はぁっ!!」

彼の足が血管が浮き上がり、寄生虫が蠢くかのようにボコボコと動き出す。

土埃を上げその姿勢のまま後ろに跳んで、宙で一回転し着地する。三人の方は互いにバランスを崩して重なるようにその場に倒れる。

「そんなのありかよ!! 人間の動きじゃなかったろ!!」

「敵はイクテュスだよ?」

「うぐぐ……」

人外的な動きをして躱す彼に健橋先輩は怒るが簡単に論破されてしまう。

流石な触手は使
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  • 高嶺に吹く波風   43話 背中を摩ってくれる仲間達

    「えーと、健さん? ここの問題ってなんでこの答えになるんですか?」 祝日の月曜日。自宅で私と波風ちゃんは健さんから勉強を教えてもらっていた。 「そこの場合……というより図形の問題は実際に線を書くと分かりやすいよ。ほら、これで何か見えてこない?」 「あぁなるほど!! ここが三角形になるから……」 健さんの教え方が上手なこともあり私はスラスラと問題を解き理解を深めていく。 「ふぅ……流石に朝からぶっ通しは疲れるわね」 時刻は正午手前。朝早くから集合してやっていたので疲れが出始める。 「お昼にするかい? 何か買ってくるか……出前を頼むか……」 「あ、じゃあアタシピザ食べたいかも」 「了解ピザね。高嶺もそれでいいかい?」 「はい! ありがとうございます」 健さんはスマホを操作しピザのデリバリーを注文する。 「さてと気分転換に何か面白い番組でも……」 片付けをし終わった後に健さんは徐ろにテレビをつける。 「あの震災から十年……」 テレビのアナウンサーが読み上げた内容にビクッと体が反応してしまう。 注意文と共に映し出される津波の映像。建物を全て飲み込み、壊し、人々の笑顔と命を奪い去っていく。イクテュスなんかとは比較にならない凶悪で残忍な悪魔。 足が震えて吐き気が込み上げてくる。 「はぁ……はぁ……!!」 あの日の景色が鮮明にフラッシュバックし過呼吸になる。 「たけ兄テレビ消してっ!!」 「あっ、ごめん!」 健さんはすぐにテレビを消してくれる。 「ごめん高嶺。たけ兄が……!!」 「いや……大丈夫だから……ちょっとトイレ行ってくるね」 私は強がった顔を貼り付けながら部屋を出てトイレに入り鍵を閉める。 「うぉぇぇぇぇぇ!!!」 私は喉まで来ていた朝食べた物を便器の中に吐き出す。ぐちゃぐちゃの原型がないものが水にぷかぷか浮かび、それを見てさらに吐き気が増す。 「うっぷ……うぉぇ……」 今度も耐えることできずポタポタと唾液混じりの粘液が口から吐き出される。 (戻らないと……心配させちゃう……) 口元をトイレットペーパーで拭き私はトイレから出る。 ちょうどそのタイミングで家のインターホンが鳴り、私は二人を部屋で待たせ玄関に向かう。 「えっと……こんにちは。えへへ……来ちゃった」 「生人君…

  • 高嶺に吹く波風   42話 家族愛

    「ん……んぅ?」 夜風が髪を揺らすが、同時にやんわりとした暖かさが首下から膝を覆う。 「あれ……? ここは?」 「おはよう。起きたみたいだね」 私のすぐ側には生人君が座っており、私にはふわふわの毛布がかけられている。 「やっと起きたようだな。イクテュスは生人が倒してくれたぞ」 「えっ……あの人型も!?」 「いや人型は良いところまでいったが取り逃してしまったらしい……けどどうしたんだ? そんな焦って?」 「な、なんでも……ない」 私は言葉を飲み込み辺りを見渡す。近くに波風ちゃんが同じく毛布をかけられ寝ているが、健橋先輩と橙子さんは居ない。 「二人ならもう帰ったぞ。無理やり抜け出してきた形だったし、それに橙子はコピー人形を使う暇すらなかったからな」 「そう……それは分かったけど、怪我は……治してくれたんだね。波風ちゃんは大丈夫なの?」 「特に問題ない。今は寝ているだけだ。すぐに目を覚ますと思うぞ」 その言葉と彼女の安らかな寝顔と寝息で私は安心しホッと一息つく。 「あの……生人……さんって呼んだ方がいいです……かね?」 「あぁいや前みたいに君呼びでもなんでも構わないよ」 「じゃあ生人君……その、さっきは決めつけて攻撃しちゃってごめん……」 いくら相手もこちらの力量を測る目的があったとはいえ私は明らかに敵意を持って手を出してしまった。そのことに違いはない。 「いやあれはボクが挑発したのが悪いんだし謝らなくていいよ。それよりボクもその……ごめんね? 手加減したとはいえ痛かったでしょ?」 生人君は昼にこの場所で会った時の無邪気さと子供らしさを含んだ笑顔を向けてくれる。こっちが彼の素なのだろう。 「お互い様ってことで……傷も治ったし」 傷はキュアリンのおかげか完璧に治っている。 「うぅん……?」 数分もしない内に波風ちゃんは目を覚まし、困惑しているところをキュアリンが事情を話してくれる。 「ふぅ。とにかくお母さん達の所まで戻らないときっと心配してる」 「うんそうだね……生人君はどうするの?」 「ボクはキュアリンと一緒に帰ってるよ。ここもイクテュスがいるかもって調べに来てたんだし、またね」 生人君はキュアリンと共にこの場から立ち去っていく。私達も心配する人が居るので山を降りみんなの元に戻る。 心配し

  • 高嶺に吹く波風   41話 不吉な予感

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